デジタル技術を応用したインプラント治療
2024年8月10日
近年、デジタル技術の進化は目覚ましく、インプラント治療にも幅広く応用されるようになってきました。特に、口腔内スキャナーを用いた光学印象法は、従来の印象材(シリコンなど)を使用した印象法に比べ、多くの利点があります。
先日、OSSTEM Japan Meeting 2024東京での講演内容がYouTubeにアップロードされました。
OSSTEM MEETING 2024 Tokyo
デジタル技術を取り入れた当院のインプラント治療について詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
下顎臼歯部に短いインプラントを使用することの有用性
2024年3月31日
歯を失った患者さんにとって、インプラント治療は自然な歯の感覚を取り戻すための有効な選択肢です。しかし、特に下顎臼歯部のように骨量が少ない場所では、治療のアプローチをどのように選ぶかが重要になります。今回は、骨量が限られている状況でも効果的な解決策を提供する6mmの短いインプラントに焦点を当てた10年間の追跡研究の結果をご紹介します。
論文タイトル:
Single crown restorations supported by 6-mm implants in the resorbed posterior mandible: A 10-year prospective case series
掲載誌:Clinical Implant Dentistry and Related Research(2024年3月)
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研究の目的と方法
この研究では、下顎臼歯部に6mmの短いインプラントを使用して治療した場合の辺縁骨レベルの変化、インプラントと補綴物の生存率、周囲粘膜の状態、および患者の満足度を10年間にわたって追跡しました。
対象は、下顎の小臼歯または大臼歯を欠損しており、最低でも幅6mm、歯槽頂から下歯槽神経までの高さが8mmの骨量を持つ21人の患者でした。各患者には1本以上の6mmインプラントが埋め込まれました。3ヶ月後、これらのインプラントはカスタムメイドのチタン製アバットメントとセメント固定式のジルコニアベースの上部構造で修復されました。治療後12ヶ月、60ヶ月、120ヶ月に臨床検査とレントゲンデータが評価され、患者は治療前と治療後の満足度をアンケートで評価しました。
結果の概要
計31本のインプラントが埋め込まれ、生存率は100%でした。10年間の平均辺縁骨損失はわずか0.18mmであり、プラーク、歯石、歯肉、出血指数のスコアも低く、ポケット探針深度の平均も小さかったです。患者の満足度は非常に高かったです。
結論と意義
この研究は、骨吸収が著しい下顎臼歯部に6mmの短いインプラントを使用することで、良好な結果が得られることを示しました。これは、骨造成手術の回数、治療時間、及び合併症のリスクを減少させる短いインプラントの利点を再確認するものです。短いインプラントは、骨量が限られている場合でも、信頼性の高い治療オプションであることが示されました。治療計画を立てる際には、このようなデータが役立つでしょう。患者さんが自身の状況やニーズに最も合った治療方法を選択するために、歯科専門医との相談をお勧めします。
論文中のFigure:
一本の欠損した奥歯を補う治療法が脳活動に及ぼす影響 – 最新の臨床研究から
2024年3月22日
当院は患者様の健康と笑顔を取り戻すために、最先端のインプラント治療に専念しています。この度、下顎大臼歯を一本失った患者様に対して行われた、異なる3種類の治療法とその脳活動への影響を比較検討した興味深い研究結果が発表されました。この研究は、治療を検討中の患者様や、インプラント治療を学びたい歯科関係者にとって非常に価値のある情報です。そこで、本記事ではその研究内容をわかりやすく解説します。
Comparative Effect of Rehabilitation with Three Different Treatment Modalities for a Single Missing Molar on Brain Activity-A Prospective Clinical Study
Int J Prosthodont(2023年)
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研究の目的と方法
本研究の目的は、一本の下顎大臼歯を失った患者様が、取り外し可能な入れ歯、ブリッジ、あるいはインプラントで治療した際の脳活動の変化を比較することでした。
参加した24名の患者様は、まず入れ歯を装着し、その後一部はインプラント治療を、もう一部はブリッジ治療を受けました。治療前、入れ歯装着後、そしてブリッジまたはインプラント治療後の3フェーズにおいて、安静時およびガム咀嚼後の脳波(EEG)を測定しました。
研究結果
治療前後の脳波の変化を比較した結果、インプラント治療を受けたグループは、他の治療法を受けたグループと比較して脳活動が最も促進されました。
結論
この研究は、一本の奥歯を失った患者様に対するインプラント治療が脳活動を向上させることを科学的に証明しました。一歯欠損に対するインプラント治療の最大の利点は、残存歯への負担を減らし、これを保護することにあります。
インプラントが残存歯を保護することを示した有名な論文
しかし、この研究によって、インプラント治療が患者様の生活の質を向上させる可能性も示唆されました。当クリニックでは、このような最新の研究結果をもとに、患者様一人ひとりに最適な治療計画をご提案しています。インプラント治療に関するご質問やご相談があれば、どうぞお気軽にお問い合わせください。
抜歯後のインプラント埋入時期
2024年3月11日
インプラント治療をご検討の皆さま、そして歯科関係者の方々へ向けて、インプラント治療における最適な埋入時期についての新たな研究成果をご紹介します。
インプラント治療計画において重要なのは、インプラントを埋入する「最適なタイミング」を見極めることです。このタイミングは、患者さん一人ひとりの具体的な状況や希望に基づいて決定されるべきで、4つの時期に分けて考えられます。それぞれの時期には、独自のメリットとデメリットがあります。
中でも、インプラント治療の先駆者であるBuser氏らによって特に推奨されているのが、「タイプ2(early implant placement):抜歯後1〜2ヶ月」の時期です。
30 Years of Guided Bone Regeneration (GBR), 3rd Edition
最新の研究によれば、この時期にインプラントを埋入することで、抜歯窩に存在する未石灰化の基質を活用し、将来的に優れた骨結合を促すことが可能であることが示されています。
この発見は、タイプ2の時期にインプラントを埋入することが、骨造成(GBR)を伴う方法と同等に効果的であることを示しています。
Flapless early implant placement into the uncalcified provisional matrix—Does it lead to osseointegration of the implant? A preclinical study
当院では、このタイプ2の時期を推奨し、患者さんにとって最良の治療結果を目指しています。
インプラント治療に関するご質問や不明点があれば、お気軽に当院にお問い合わせください。皆さまの健康と美しい笑顔を取り戻すために、私たちはここにいます。
上顎洞底挙上術③
2024年2月23日
今回は、上顎洞底挙上術に関連する、今年発表されたばかりの最新の研究成果をご紹介いたします。
論文タイトル:「APCs in sinus floor augmentation」
掲載誌:Periodontology 2000(2024年)
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この論文は、上顎洞底挙上術における自己血小板濃縮液(APCs)の可能性に焦点を当てています。APCsには様々な種類がありますが、特にL-PRF(白血球と血小板が豊富なフィブリン)の利用が強調されています。以下、L-PRFの主な利点を簡潔にまとめました。
1. 自然な骨の増加: L-PRFの使用により、インプラント周囲の骨量が自然に増加します。これは、インプラントの安定性とその長期的な成功に不可欠です。
2. 治癒の促進: 手術後の回復を加速する成長因子がL-PRFに含まれており、迅速な治癒を促進します。
3. 上顎洞膜の保護: L-PRFは、上顎洞底挙上術中の上顎洞膜を保護し、穿孔が生じた場合の修復にも役立ちます。
4. 高い生体親和性: 患者様自身の血液から作られるため、拒絶反応のリスクが極めて低く、自然で安全な治療オプションです。
5. 術後の不快感の軽減: L-PRFは、術後の腫れや痛みを和らげ、快適な回復期間を提供します。
従来、上顎洞底挙上術では骨補填材の使用が一般的でした。しかし、この論文でも述べられているとおり、上顎洞底挙上術において骨補填材を必ずしも必要としないことが明らかになりました。適切な条件下では、患者様自身の再生能力だけで骨が形成されます。
※論文中のFigure
※論文中に、私が書いた論文も引用されています
当院では、L-PRFを用いた上顎洞底挙上術を行っており、患者様の自然な再生能力を最大限に活用する治療を提供しています。より良い口腔健康と生活の質の向上を目指している皆様、インプラント治療にご興味がある方は、ぜひ当院までお問い合わせください。
上顎洞底挙上術②
2024年2月13日
インプラント治療に興味をお持ちの皆さまや、歯科の専門知識を深めたい関係者の方々へ、今回も前回に引き続き、上顎洞底挙上術(サイナスリフト)に関する重要な研究成果をお伝えします。
今日ご紹介するのは、「Interventions for replacing missing teeth: augmentation procedures of the maxillary sinus」という題目の論文で、これは2010年に初めて公開され、2014年に改訂されたコクランレビューです。
2010年版
2014年版
この研究では、インプラント治療における一つの大きな課題である、上顎洞底挙上術の必要性とその有効性について検証しています。特に、インプラントを支えるための骨の量が少ない場合にどのようなアプローチが最適かに焦点を当てています。
2010年の研究結果からは、骨の量が1〜5mmしかない場合でも、移植骨を使わずとも上顎洞の粘膜を持ち上げることで十分なスペースを確保し、新しい骨を再生させる可能性があることが示されました。また、骨の高さが3〜6mmの場合には、より長いインプラントを埋め込むための大規模な骨造成手術よりも、シンプルに粘膜を挙上して短いインプラントを使用する方が、合併症のリスクが低いことが分かりました。
2014年の改訂版では、残存骨量が4mmから9mmのケースに対する最適な治療法についてはまだ確かな証拠が得られていないものの、上顎洞底挙上術を行うことで合併症のリスクが高まる可能性があると指摘されています。
これらの知見は、近年では大規模な上顎洞底挙上術の必要性が疑問視され、より短いインプラントを使用した低侵襲な手術方法が推奨されるようになっていることを示しています。私自身、大規模な手術を得意とする背景を持ちながらも、患者様の利益を最優先に考え、不必要な手術は避けるべきだと常に心掛けています。
当院では、こうした最新の研究成果をもとに、より安全で患者様にとって負担の少ないインプラント治療を提供することに努めています。皆様が安心して治療を受けられるよう、常に最新の知識と技術でサポートいたします。
上顎洞底挙上術①
2024年2月6日
インプラント治療に関心をお持ちの皆様と、歯科のプロフェッショナルの方々へ向けて、今回はインプラント治療のキーテクニックである「上顎洞底挙上術」に焦点を当て、易しく解説いたします。
上顎の奥歯を失った際には、骨量が不足しているという問題にしばしば直面します。この問題を解決し、インプラントを確実に支持するためには、骨量を「増やす」必要があります。以前は、インプラント治療の成功には豊富な骨量が必要不可欠だとされ、患者自身の腰骨や加工された動物由来の骨を使って骨量を増やす手法が広く採用されてきました。
しかし、最新の研究は、かつて考えられていたほど多くの骨を作る必要がないことを示しています。ここで紹介する研究は、上顎洞底挙上術において、大量の骨補填材(牛の骨)を用いたグループと、全く使用しなかったグループを比較した、信頼性の高い「ランダム化比較試験」です。この研究では、手術前に患者様を両グループに分け、その後の経過を比較しました。結果は1年後と5年後の両時点で公表されており、それぞれのリンクから詳細を確認できます。
1年後の結果:
Osteotome sinus floor elevation with and without grafting material in the severely atrophic maxilla. A 1-year prospective randomized controlled study
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5年後の結果:
Short implants placed with or without grafting into atrophic sinuses: the 5-year results of a prospective randomized controlled study
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結果からは、補填材を使用したグループで骨の量が多かったにも関わらず、インプラントの成功率において両グループ間で有意な差は見られなかったこと、実際には補填材を使用しなかったグループの方が若干良い成績を示したことが分かりました。これは、インプラント治療において骨を増やすこと自体よりも、インプラントが安定して機能することを最優先に考え、より安全で低侵襲な治療方法を選択すべきであることを示唆しています。
当院では、これらの最新の研究成果を踏まえ、上顎洞底挙上術を行う際には、大多数のケースで骨補填材を使用しないアプローチを採用しています。これにより、患者様の手術に関連する負担を顕著に軽減できるよう努めています。
インプラント治療の分野は日々進化しており、患者様だけでなく、専門知識を深めたい歯科関係者にとっても、新しい知見は大変貴重です。私たちの目標は、皆様が適切な治療選択ができるように、最新の研究に基づいた正確で理解しやすい情報を提供することです。
エビデンス・ベースド・メディスン(EBM)とは? – インプラント治療への応用
2024年2月2日
インプラント治療を検討中の皆様や、歯科の分野で学びを深めたい専門家の方々に向けて、”エビデンス・ベースド・メディスン(EBM)”の世界へご案内します。この言葉が耳慣れない方もいれば、テレビで耳にしたことがある方もいるでしょう。EBMの概念は、サケット先生による有名な論文で提唱され、1990年代から医療のあり方を変えてきました。
論文タイトル:
Evidence based medicine: what it is and what it isn’t
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EBMの魅力は、単なる経験や専門家の意見に頼るのではなく、科学的証拠を基にした医療の実践にあります。これにより、より安全かつ効果的な治療法を選択することが可能になります。ただし、EBMについては誤解されがちな点もあります。
一つは、EBMで言う「エビデンス」とは、主に人間を対象にした臨床研究から得られるデータを指すことです。動物実験や基礎研究も医学の理解には不可欠ですが、EBMでは直接的なエビデンスとしては扱われません。また、「エビデンスがない治療は避けるべき」という考え方も誤解です。エビデンスが不足している治療であっても、それが有効である可能性は十分にあります。特に、新しい治療法やまだ十分に研究されていない分野では、エビデンスの量が限られることはよくあります。
インプラント治療においても、高品質な臨床研究を行うことの難しさから、エビデンスが不足しがちです。しかし、これはインプラント治療がEBMに不向きであるというわけではありません。EBMの真髄は、臨床で直面する問題に対して、最新の情報をもとに、患者様一人ひとりの希望や状況を考慮しながら治療を進めることにあります。
私たちのクリニックでは、EBMの理念に基づき、患者様に最適なインプラント治療をご提供することをお約束します。安全で効果的な治療を受けることは、皆様が期待する権利です。私たちは、科学的根拠に基づいた最良の治療選択を通じて、その権利を実現します。
抜歯後の歯槽堤保存術についてのエビデンス①
2024年2月1日
1月27日(土)と28日(日)に福岡で開催されたインプラント外科セミナーの講師を務めてきました。本日は、その中で私が紹介した論文の一つをご紹介します。
論文タイトル
“Interventions for Replacing Missing Teeth: Alveolar Ridge Preservation Techniques for Dental Implant Site Development” (日本語訳:「歯科インプラント部位のための歯槽堤保存技術」)
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この研究は、歯を抜いた後の歯槽骨を健全に保ち、インプラント治療に最適な環境を整えるための方法、すなわち「歯槽堤保存術」の効果について評価しています。コクランレビューによるこの研究は、信頼性の高いエビデンスに基づいたもので、2015年に初めて公開され、2021年には最新の情報へと更新されました。
この研究が示す通り、抜歯後の歯槽骨を保持する方法は様々に存在しますが、どの方法が最適かについては、まだ決定的な答えは出ていません。治療方法を選択する際には、各方法の利点と欠点を慎重に比較し、患者様の個別のニーズに最も適した選択をすることが肝心です。
当クリニックでは、患者様個々の状態に合わせた最適なインプラント治療を提供することを目指しています。そのために、最高のエビデンスと最新の研究成果をもとにした治療計画を立てております。インプラント治療に関するご質問や疑問があれば、いつでもお気軽にご相談ください。皆様からのお問い合わせを心よりお待ちしております。
インプラント総合情報
2024年2月1日
「インプラント総合情報」では、歯科インプラント治療に関する豊富な情報を、当院院長の専門的視点からわかりやすくお届けします。院長は、インプラント治療のセミナー講師として、また専門誌への論文執筆者として、豊富な経験と知識を持っています。
当院のブログでは、この専門知識を活かし、インプラント治療を考えている患者さんや、この分野を学びたい歯科医師の方々に、最新の治療法や技術の進歩、重要な臨床研究のエッセンスを、平易な言葉で解説します。皆様の治療選択や専門知識の向上に役立つ情報を、分かりやすい言葉でお届けします。